労務事情と賃金
 戦後の新憲法は国民に対して平等権、自由権、財産権などの基本的人権を保障するとともに一方勤労者に対して団結権、団体交渉権および団体行動権などの所謂る労働3権を保障するに至った。
更に昭和22年4月、労働基準法(法第49号)が施行されるにおよび労働権はより強化されるに至った。もとより此の法律は日本国憲法第27条の規定に基ずいて作られたもので、労働者も人間であるという人道的基本条件を具体化するための立法である。従って労働基準法第1条に<労働条件は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない>と冒頭にのべている。然して斯様な理想を実現するためには安全、衛生ならびに災害補償、賃金、労働時間、休日、年次休暇その他就業規則等を定め、労働者の保証を確立する事によって、職場に於ける生活のみならず、私生活にも時間的な余裕を与えた。同法の制定によって、封建社会制度に於けるれい属的な即ち、“女工哀史”に見る苛酷な労使関係から労働者有位の労働条件の確立を見るに至った。
更に昭和34年4月に最低賃金法(法第137号)が制定せられ、職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額が保障されるにおよび、労働者の生活の安定と労働条件がより一層改善されるに至った。然し、これらの立法はいずれも憲法に定められた自由平等と基本的人権の確立のためとは言え、其の背景はもとより勤労者保護の立法であるが為、ここに於て労使関係は階級斗争的色彩を濃くするに至る。